出題箇所:例年、学科III(構造)の No.9 〜 No.11 付近
出題数:1問程度(材料特性として独立して出題される)
・鋼材の「引張試験」における応力とひずみの関係(応力−ひずみ曲線)において、フックの法則が成り立つ「比例限度・弾性限度」と、部材が塑性変形を起こし始める「降伏点」の定義を明確に区別しておきましょう。
・降伏比(降伏点 ÷ 引張強さ)の数値が小さいほど、降伏してから破断するまでの変形能力(粘り強さ)が高くなり、大地震時のエネルギー吸収に有利になる特性をマスターする必要があります。
近年の出題傾向
- 鋼材の「ヤング係数」や「線膨張係数」は、鋼材の強度(SN400やSN490など)や炭素量に関わらず、すべての建築構造用鋼材において「ほぼ一定」であるという原則が頻出しています。
- 鉄は火に弱いため、火災時の高温(約350°C〜500°C)において、許容応力度やヤング係数がどの程度まで低下するかという「温度特性」の数値が重視されています。
模擬問題と解説
1. 鋼材の応力−ひずみ関係と力学的特性
【問題】建築構造用鋼材の力学的性質に関する記述のうち、最も不適当なものはどれか。
- 鋼材に引張力が作用する際、応力とひずみが正比例する限界の点を「降伏点」といい、この領域における直線の傾きをヤング係数(縦弾性係数)と呼ぶ。
- 鋼材の強度(設計基準強度)が高くなるほど、引張試験において部材が破断するまでに伸びる割合(破断伸び)の値は、一般に小さくなる特性がある。
- 鋼材のヤング係数は、鋼材の引張強さの等級(400N/mm²級、490N/mm²級等)の違いに関わらず、ほぼ一定の値(約2.05×10^5 N/mm²)として構造計算を行う。
- 鋼材が降伏した後に破断するまでの最大引張応力を「引張強さ」といい、引張強さに対する降伏点の比(降伏点 ÷ 引張強さ)を「降伏比」と呼ぶ。
- 地震時の水平力によって骨組が大変形した際、建物が急激に崩壊するのを防ぎ、エネルギーを吸収させるためには、降伏比の小さい鋼材を使用することが有効である。
【正解】1
- 解説:材料の定義が誤っています。鋼材を引っ張った際、応力とひずみが正比例(フックの法則が成立)する限界の点は、「降伏点」ではなく【比例限度(または弾性限度)】と呼びます。 この比例関係が終わった後に、荷重をほとんど増やさなくてもひずみ(変形)だけが急激に増大し始めるポイントを【降伏点】と呼びます。本肢は両者の定義を入れ替えて受験生を惑わせる本試験定番の引っかけ問題です。
- ポイント:応力とひずみが比例する限界 = 比例限度(弾性限度)
荷重が増えないのにググッと伸び始める点 = 降伏点
降伏比(降伏点 ÷ 引張強さ)は「小さい」ほど、地震に対して「粘り強く」 なります。
2. 鋼材の温度特性と熱的挙動
【問題】鋼材の温度変化に伴う力学的性質の低下及び熱的挙動に関する記述のうち、最も不適当なものはどれか。
- 鋼材の温度が上昇すると強度は低下する傾向にあり、通常の建築構造用鋼材においては、温度が約350°Cに達すると、常温時の降伏点(長期許容応力度)とほぼ同等まで強度が低下する。
- 火災等により鋼材の温度が著しく上昇し、約500°Cを超えた領域に達すると、鋼材の降伏点及びヤング係数は、常温時の概ね1/2以下まで急激に低下する。
- 鋼材の「線膨張係数(熱膨張係数)」は、コンクリートの線膨張係数とほぼ等しいため、鉄筋コンクリート構造や鉄骨鉄筋コンクリート構造において一体性を確保する上で有利な特性となっている。
- 常温以下の寒冷地における鋼材の性質を検討するにあたり、鋼材の温度がマイナス数十度といった極低温状態に低下すると、変形能力が失われて急激に割れる「低温脆(ぜい)性」を起こしやすくなる。
- 鋼材に含まれる「炭素量」を一定の範囲内で多くする計画は、常温時における鋼材の降伏点や引張強さを向上させるとともに、火災時の高温下における強度の低下速度を著しく遅らせる効果がある。
【正解】5
- 解説:鋼材に含まれる炭素(カーボン)の量を増やすと、常温での強度は上がりますが、その代償として「溶接性が悪くなる(割れやすくなる)」などの弱点が生じます。また、炭素量を増やしても「火災時の高温下における強度の低下速度を遅らせる」という効果はありません。鉄は炭素量に関わらず、一定の温度(350°C〜500°C)になれば一様に強度がガクンと落ちてしまいます。高温に耐える鉄にするには、クロムやモリブデンを混ぜた特殊な「耐火鋼(FR鋼)」を採用する必要があります。
- ポイント:鉄は熱に弱く、350°Cで長期許容応力度レベルまで低下し、500°Cを超えると元の強さの半分(1/2)以下になります。
気温が極端に低い場所で鉄に強い衝撃が加わると、ガラスのようにパリンと割れる 「低温脆性」 という現象が起きやすくなります。
3. 鋼材の製造規格(SN材・SS材)と適用
【問題】建築構造物に用いられる鋼材の規格、化学成分及び設計への適用に関する記述のうち、最も不適当なものはどれか。
- 一般構造用圧延鋼材(SS材)は、主要な構造部材への適用において溶接性の保証が明記されていないため、高い溶接品質が求められる大地震時の塑性変形能力を期待する柱や梁の接合部への使用は避けるべきである。
- 建築構造用圧延鋼材(SN材)は、大地震時の建物の安全性を確保するために開発された規格であり、溶接性の確保に加えて、降伏比の上限値や衝撃値(粘り強さの指標)が厳格に規定されている。
- SN材の規格のうち、「SN400B」や「SN490B」のように末尾に「B」が付く鋼材は、降伏比の上限が規定されており、溶接性も配慮されているため、塑性変形能力を期待する梁や柱の部材に適している。
- 鋼材に作用する引張荷重が、板厚方向(鋼板の表面に対して垂直に引っ張る方向)に強く作用する溶接接合部においては、鋼板が層状にめくれる破壊(ラメラーテア)を防止するため、板厚方向の特性が保証された「Cグレード(SN400C等)」の鋼材を採用した。
- 鋼材に引張力が繰り返し作用して生じる「疲労破壊」を検討するにあたり、構造計算における許容応力度の範囲内(弾性領域内)での応力変化であれば、繰り返し回数が数百万回におよぶ場合であっても疲労による破断を考慮する必要はない。
【正解】 5
- 解説:構造計算における「許容応力度の範囲内(鉄が伸びきらずに元に戻る安全な弾性範囲)」であっても、数百万回といった非常に多い回数の引張・圧縮の繰り返し荷重を受けると、目に見えない微細な傷(微視的ひび割れ)が成長し、ある日突然バキッと破断する【疲労破壊】が発生します(歩道橋の振動や、工場のクレーンが走る梁などで起こります)。したがって、「考慮する必要はない」とする実務設計は不適当です。
- ポイント:SS材(一般構造用)は溶接の保証がないため、大地震で踏ん張るメインの柱・梁には向きません。
SN材(建築構造用)は、大地震の揺れに耐えるために生まれた「溶接性・粘り強さ」抜群の、現在のエース鋼材です。ラメラーテア(板のめくれ破壊)を防ぎたいときは、一番グレードの高い「C種(SN400Cなど)」を板厚方向の引張箇所に使います。
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